【アングリングvol.153〜BP的FFの魅力】1999年8月1日発行
その夜、3つの部屋に分かれて宿泊となった。船は港に泊めて森山紹巳船長は船で眠る。まだ見習いだった前田さん(マンブーキャプテン)と一緒に宿で一夜を明かす。
シャワーを浴び晩ご飯を食べ、オリオンビールを片手にまだ寝るには早い時間に男6人がたわいもなく話す。
釣りの話、人の話、今日の話、前の話…。話は止まらない。那覇本島の観光ホテルに泊まってるわけじゃないから、雰囲気も良い。琉球畳に寝っ転がり、日焼けした身体が火照るのがわかる。みんなは笑っている。
でも私だけはその会話に混ざる事が出来ないのだ。
マンブーと大学の同級生だった今仲公彦君の顔はボヤけて見えていた。しかしいつしかみんなの声も雑音にしか聞こえなくなり、私の身体はもの凄い力強い気迫で押しつぶされていく。琉球畳にのめり込む様な圧力。息がしにくくなって来た。
なぜなら、茶黒く痩せてガサガサな手だけが私の胸辺りをギュッと押してくるのだ。その圧すチカラは胸から首へと。目を開く事はもう出来ない。
身体の自由を確認しようとするのだが、両肩が上からの圧力で動けない。両手、両脚は畳の中から誰かがガッツリと動けない様に掴んでいる。
眼を瞑る目の中にひかりが見えてきた。その小さな光を必死になって確認しようとする。しかし見えない。ゆっくり、ゆっくりとその光は様子がわかる様にまでなってきた。なんだろう、どうしたんだ俺。息もし難い状態で苦しくて仕方がない。少し息が吸え、また呼吸が出来なくなる。これの繰り返しだ。
畳にのめり込んでいく私の身体。畳の中から両足、両脚を掴まれて引き込まれそうになっている。今仲!マーちゃん!助けてくれっ‼️と叫びたいが声が出ない。そして、目の中で見えたものは、ギラリと睨む眼球だった…。
『ハッとして』妖怪の様な茶黒く痩せてガサガサな手が胸から外れ、琉球畳の中から掴まれていた両手脚も解放された…。記憶がゆっくりゆっくり戻っていく。柔道の締め技で『落ちた』事のある方ならこの時の状況が伝えやすい。そうなのだ、まるで締め技で『落ちた』時と同じ現象が仲間達が雑談している時に私に降りかかってきたのである。
もの凄い汗。喉はカラカラだ。その記憶を確認している私の姿にザウルス若手メンバーや今仲君、マンブーが笑って顔を覗き込んできた。
『お前、魘されてたで』鶴瓶顔の今仲君が笑って言う。ザウルス高橋はケラケラ声を出している。ムッツリ金子もニヤリとしていた。みんな私の様子が変な状態だったのをみていたのだ。
私は急いで缶ビールを口にしてゴクゴクと喉を鳴らしてビールを流し込んだ。
マンブーは笑って言う。『お前、金縛りにあってたなぁ、みんなで見てたよっ。アハハハハァ❗️』みんなは笑い声。しかし私はまだ21時にもなっていない居間でとんでもなく怖かった二次体験をしたのであった。
それがこのロケ釣行夜であったのでした。
【データ】
誌名:アングリング vol.153
出版社:株式会社廣済堂出版
編集長:伊藤 裕
毎月10日発行
1999年8月1日発行