【わさびや】余市に来たら「ザンギ」と人情味溢れるお店が一番。
『今年も来たね。よく来たね。』わさびやの女将さんが笑顔で我々を迎え入れて下さった。
余市の街は、余市神社を中心に神輿がまわり、豊漁坊農無病息災商売繁盛地域活性祈願で余市町全域を祝うお祭りが行われていた。
いつもはそこそこ地味でのんびり平穏な町もこの日ばかりは老若男女問わずニコニコニヤニヤワイワイガヤガヤと楽しそうに動き回っている姿が目にとまる。
ハッピに鉢巻を纏い行き交う青年団の若い衆。それと共に奥様方も奉納奉仕やお手伝いで機敏なる動きで声を張り上げていた。
それを横目に『わさびや』へ入ったのだが、人気食事処『わさびや』なだけにお祭り関係者が次々と店内に入って来ては、お茶を飲み、グビッとやり、腰を下ろし、仲間との会話をする。普段にはない賑わい様子につい見入ってしまう小生であった。
生ビールを最初の一杯は喉ボトケをグビグビ鳴らしながら飲み干す。なんとも言えない旨さだ。
その理由は、夏祭りの雰囲気に酔い、出されたお通しが絶品三種であったから。
若竹をわさびマヨネーズで和えたもの。蟹味噌に蟹肉を和えたもの。鰊(ニシン)南蛮漬け。
これがお通しなのだから、生ビールが更に盛り上がるのはお分かりでしょう。
しかし、ここで生ビール追加をぐっと我慢し、やっぱり余市なんだから、と勝手に『マッサン気分』に浸りたくハイボールをお願いした。
“竹鶴”でいただくハイボール。そうなると『ザンギ』は外せない。
ザンギは衣までしっかりと味付けられ、鶏肉にも醤油ベースな味がしっかりと浸透している。ガブリッと齧り、ぐびっとハイボールで流し込む。まさに贅沢極まりないそれに、アルコールで酔う前に雰囲気で酔いそうになる。
地のお刺身も運ばれ、たこのザンギもお願いした。水蛸の吸盤部分がコリッとした歯応えで噛めば噛む程に味が口いっぱいに広がるのだ。これが本当に「至福の時」。
店内はストーブが焚かれ、季節に似合わない寒さの夜であるが、ここでは人情が暖かいので寒さはさほど感じない。
暖かさにホッとする。
風味あるザンギとハイボール。外からは太鼓と縦笛の音色が響き、神輿が近づいて来てるのが分かる。そんな時、顔を白色に塗った法被を着た人達が店内に流れ込んで来た。
お店の中へ入って来たと思えば、大きな籠(千両箱)をぶら下げてひと回りする。わさびやの大将は小さな封筒をいくつか用意してあり、それを法被の裾に入れていく。
「商売繁盛ご利益がありますように」のお賽銭なのだろうか。ここでも新しいひとつの文化を目にする事が出来、いつもとはまた違う積丹半島、余市町の様子を見る事が出来たのだ。
飲みも翌日沖仕事があるのでそれほど深くはやめておき、ラストは焼き鯖の押し寿司を頼んだ。
これ、ご飯(しゃり)にも味が染みており、香ばしい鯖の味と鯖の脂と醤油ベースなシャリが絶妙にマッチし、アルコールとも合う。
ひとくち「パクリっ」とやりニッコリ。やっぱり裏切らなかった「わさびや」さん。
ここは町もお店も店主も裏切らない場所。もちろん裏切る様な行動をするひとも居るだろうが、この時間は本当に素敵な余市の雰囲気に浸る素晴らしい時間であったのだ。ご馳走さまでした。